実施例1の先に進むと、いよいよ結晶膜の成長の段階になります。もっともよく使われている半導体材料はシリコン(Si、日本語では珪素)ですが、このSiという元素は周期律表でみるとW族です。ゲルマニウムもW族の半導体です。周期律表でW族の両側にあるV族とX族の組み合わせ、あるいはU族とY族の組み合わせの化合物にも半導体として知られているものが多いです。V族のAl、Ga、Inなどの金属とV族のP、As、Sbなどとの化合物はV−V族化合物半導体としてよく知られています。GaNやAlNもNはV族ですからV−V族化合物半導体の一種です。 このような半導体の結晶膜を作る方法はいろいろあります。大きく分けると、バルク結晶の成長と同じように半導体原料を融かして液状にしたものに基板を漬けて結晶膜を成長させる方法と基板表面に原料のガスや粒子を降り積もらせる方法とがあります。非常に薄い膜を作ったり、何層にも膜を積み重ねる場合には降り積もらせる方法の方が断然有利です。 降り積もらせる方法にもいろいろありますが、化合物半導体の場合は加熱すると分解してしまうので、例えばV族の原料とX族の原料を別々に降らせ、基板の上で反応させて化合物を作る方法がとられます。GaAsの場合であれば、GaとAsを別々に加熱して蒸発させ、基板上で反応させGaAsの結晶膜を作ることができます。またGaの化合物とAsの化合物をガスとして基板上に送り、化学反応をさせて結晶膜を作る方法もあります。GaNの場合、窒素は単体で蒸発させることはできませんので、どうしても後者の方法をとることになります。 質のよい薄膜を工業生産のレベルで作製できる後者の方法として、有機金属化学気相成長法(略してMOCVD法)という方法があります。この特許の実施例に書かれている方法もこのMOCVD法です。この方法によってGaNの結晶膜を作るには、原料としてトリメチルガリウム(TMG)という有機金属材料とアンモニア(NH3)とを使います。 無機物の結晶を作るのに、有機化合物をわざわざ使うのは少し奇妙な気がしますが、これはつぎのような理由によります。TMGという材料は常温で液体ですので、これに水素などのガスを通してブクブクしてやれば(バブリングといいます)、TMGを含んだガスを簡単に基板上に送れます。またデバイスにする半導体はわずかな不純物の混入もきらいます。純粋なものに人為的に不純物をわずかに添加して特性をコントロールしているため、はじめから不純物が入っていると困るのです。精製したTMGはGaのほかにはメチル基(CH3)しかなく、これは揮発して半導体のなかには残らないので、純粋な無機半導体を作ることができるのです。 窒素の原料としてはアンモニアガスが使われています。空気中にも窒素ガス(N2)はたくさんありますが、安定過ぎて他の物質と化合させるのは難しくあまり使われません。アンモニアを使ってもGaNを作るのはなかなか大変で、この実施例でも1000℃に加熱しています。GaAsをMOCVD法で作るときの温度は600℃位ですから、ずいぶんと高温です。このためガスを基板に吹き付けても熱対流でガスが基板表面にとどまりにくいのです。 原料ガスの流量5リットル/分というのは相当な量です。上で原料を「降り積もらせる」と表現しましたが、この場合はそんなイメージではなく、細い管からガスを噴射させ基板に吹き付けるという方が近いでしょう。それでも吹き付けただけではだめなので、基板の横の方から原料ガスを送り、基板の上からは水素ガスを吹き付けて原料ガスを押さえ込んでしまうというのがこの特許の発明のポイントです。 これによって直径2インチ(約5cm)の基板上に厚さ4μmで、厚さのむらが±10%以内の結晶膜ができたと書かれています。発光ダイオード1個のチップは数mm角ですから、1枚の基板上に均一な膜ができればかなりの数の発光ダイオードが取れることになります。これがこの発明の意義ということになります。 |
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