石くれと砂粒の世界

アクセスカウンタ

zoom RSS 白色発光ダイオードの基本特許(その2)

<<   作成日時 : 2006/01/08 19:02   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

画像 さて前々回からのつづきですが、青色発光を蛍光体により波長変換して白色にする白色発光ダイオードについての日亜化学の特許(特願平3−336011号)とその分割出願群について内容を見ていきましょう。

 前々回説明したように特願平3−336011号は拒絶査定不服審判までいきましたが特許にはなりませんでしたので、公開特許(特開平5−152609号)の特許請求の範囲を見てみましょう。請求項は1つだけでつぎのようになっています。分節してA、B・・・をつけて示します。

A:ステム上に発光素子を有し、それを樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオードにおいて、
B:前記発光素子が、一般式GaxAl1-xN(但し0≦x≦1である)で表される窒化ガリウム系化合物半導体よりなり、
C:さらに前記樹脂モールド中に、前記窒化ガリウム系化合物半導体の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料、または蛍光顔料が添加されてなる
D:ことを特徴とする発光ダイオード。

 ここでAは従来の赤色発光ダイオードなどでも一般に用いられている構造です。特許の図面を掲載しておきますが、電極を接続した発光ダイオード素子11の全体を樹脂4で覆ってしまう構造です。Aは「〜において」という文節ですからこれはこの特許の発明の大きな範囲を示しています。Bもこの特許の出願時点(1991年11月)にはすでに知られていました。例えばこの後の分割出願の引用文献に使われている赤崎教授のグループの報告がこの年の応用物理学会誌2月号に載っています。そのタイトルは「GaN pn接合青色・紫外発光ダイオード」です。時間的には数ヶ月ちがいですが、公知であったことは事実です。Cは少し微妙です。これも後の出願に対する引用文献ですが、特開平1−179471号には窒化硼素(BN、これもVーV族窒化物系化合物半導体です)のpn接合発光ダイオードの表面に蛍光体を塗布して可視光を得たと書かれています。近いですが、窒化ガリウム系ではないし、樹脂モールド中に蛍光体を添加したとは書かれていません。

 確かにこの発明そのものが書かれた先行文献はなさそうですが、近い内容の文献は多数あり、これらを組み合わせれば、この発明は容易に思いつくと特許庁は判断したものと思われます。特許庁から包袋という審査、審判の経過情報を取り寄せれば、特許庁と出願人のやりとりはすべてわかりますが、ここでは一般の方が容易に(基本的に無料で)アクセスできる情報だけを使って説明することにしています。その限りでは審査官の出した引用文献も出願人の補正内容もわかりませんが、だいたい上記の推定でまちがっていないはずです。

 それでは次にこの出願をベースに特許になった分割出願の方を見てみましょう。最初の分割出願は1997年に出願された特願平9ー306393号です。1991年の最初の出願(親出願)のときは青色発光ダイオードができることがわかってきた時点ですが、分割出願がされた6年後にはもう青色発光ダイオードは実用化されることが明確になっていますので、だいぶ状況は変わっています。しかし前回説明したように分割出願はあくまで最初の出願に書かれていた範囲でしなければなりません。まず公開特許(特開平10−93146号)に載っている出願時の特許請求の範囲を見てみましょう。請求項は2項あります。

【請求項1】
A:発光素子(11)と、この発光素子(11)からの波長により励起されて、励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍光染料又は蛍光顔料(5)とを有する発光ダイオードにおいて、
B:前記蛍光染料又は蛍光顔料(5)は、メタル上の発光素子(11)を包囲するよう配置されると共に、
C:前記発光素子は、n型およびp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備え、
D:この窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子(11)は、
E:メタルに対向する面の反対側に位置する同一面側に、一対の電極をワイヤボンドして接続しており、
F:一方の電極は、窒化ガリウム系化合物半導体がエッチングされてn型層の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極である
G:ことを特徴とする発光ダイオード。
【請求項2】
H: 前記発光素子(11)が、青色の可視光を発光する窒化ガリウム系化合物半導体である請求項1に記載される発光ダイオード。

 この分割出願は親出願に対する拒絶理由に対応するのと並行して行われています。内容を見てお分かりと思いますが、親出願から何かを分けて出願したような感じはあまりなく、前回説明した分割出願の典型例には当てはまらないように思います。親出願は請求項が1つだけでしたので、補正でこの分割出願の内容を含む請求項を加えるということもできたと思いますが、出願人は親出願は親出願として補正し、それでは不安なところがあったので、別の出願もしたというところでしょうか。

 Aは発光ダイオードと蛍光体の組み合わせを前提とする内容になっています。これは蛍光体を使うことが先行文献に記載されていることが明らかになったためです。Bでは樹脂モールドという語はなくなり、蛍光体が発光素子を包囲するように配置されているという表現になっています。Cは公知ですがこの前提は外すわけにいきません。親出願ではAlGaN限定だったのですが、ここではその限定はなくなりかえって広くなっています。出願時はAlGaNが本命だったのですが、分割出願のときにはむしろInGaNが本命になってきたためではないかと思われます。

 D、E、Fは素子の構造に関する記述です。窒化物半導体は絶縁体のサファイアを基板として用いているため、基板の裏面側から一方の電極を取り出すことができません。このため、図のように素子11の上面に電極を2つとも形成し、そこからリード線を出しています。これを言っているのがEです。その際、上層のp型層の一部を除去しないと下層のn型層に電極を設けることができません。これを言っているのがFです。このような技術は特別に新しいものとは言えませんし、またどちらかといえばこうせざるを得ないからしたまでであって、この構造にすることでとくにメリットはないと思われます。

 このようにこの分割出願は親出願に比べて請求項にいろいろと加えてはいますが、本質的に親出願と変わっていないと言えます。したがって親出願が特許にならないのであればこちらも難しいと思われますが、実際には特許になりました。その辺については次回に。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
白色発光ダイオードの基本特許(その2) 石くれと砂粒の世界/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる