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zoom RSS 白色発光ダイオードの基本特許(その3)

<<   作成日時 : 2006/01/14 20:22   >>

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 またまた前回からのつづきですが、分割出願、特願平9ー306393号はどのような特許になったかを見てみましょう。その前に、例によって特許電子図書館の経過情報を覗いておきます。出願情報と審判情報を開いてみると、この出願は拒絶理由通知に応答したのち、登録査定になりましたが、その後、異議申立を受けていることがわかります。4ヶ所から異議申立がなされています。登録査定後、激しく包袋の閲覧請求が行われていることから見ても、かなり業界における利害が絡んだ特許であることがわかります。

 結果的には異議に対して1回の訂正が行われたのち、特許は取り消されることなく維持されています。ここでありがたいことに、経過情報の出願情報のところに、拒絶理由通知で引用された文献と異議申立で証拠とされた文献のリストが掲載されています。親出願には掲載されていませんでしたので、世間の関心が高いと思われる案件には詳しい情報を提供するということなのかもしれません。提供されている情報が一律でないと抗議するというより、こんな公的データベースでも機械的な情報提供でなく、人の判断がはたらいていることが垣間見えて面白いと思います。

 まずは登録特許、第2900928号の請求項を見てみましょう。請求項は1つが削られて1つだけになっています。前回の出願時の請求項と対応した文節にして示します。なお、ここで注意しなければいけないのは、この請求項は登録査定になったのちに発行された特許公報に掲載されたもので、異議申立に対応してなされた訂正内容は反映していない点です。正確な権利範囲を知るには包袋を閲覧する必要があります。

【請求項1】
A’:メタル上の発光素子(11)と、この発光素子(11)全体を包囲する樹脂モールド中に発光素子(11)からの波長により励起されて、励起波長と異なる波長の蛍光を出す蛍光染料又は蛍光顔料が添加された発光ダイオードにおいて、
B’:前記記蛍光染料又は蛍光顔料(5)は、発光素子からの可視光により励起されて、励起波長よりも長波長の可視光を出すと共に、
C’:前記発光素子は、サファイア基板上に青色の可視光を発光するn型およびp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体を備え、
D:この窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子(11)は、
E’:メタルに対向する面の反対側に位置する同一面側に、一対の電極を金線によりワイヤボンドして接続しており、
F:一方の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体の表面を露出させた部分に接続されたオーミック電極である
G:ことを特徴とする発光ダイオード。

 出願時から変わった点(特許公報ではアンダーラインで示されています)は、つぎの通りです。A’の「・・・において、」までは出願時のAとBを合体させたような内容になり、親出願にあった「樹脂モールド」という語が復活しています。B’は蛍光体が発する光を「励起波長よりも長波長の可視光を出す」と新たに限定する内容です。C’は出願時のCと請求項2の内容を加え、さらに基板がサファイア基板であることに限定しています。E’は出願時のEにワイヤボンドを金線ですることを限定しています。

 ここで経過情報に載っている引用文献を見てみます。拒絶理由通知で引用された文献は4件で、前回すでに紹介した赤崎グループの応用物理学会誌(1991年2月号、GaN系pn接合発光ダイオードを紹介している)と特開平1−179471号(BN発光ダイオードに蛍光体を塗布)のほか、実公昭54−41660号と実開平3−24692号が挙げられています。「実」というのは実用新案のことです。実用新案は現在は無審査で登録になるようになっていますが、以前は特許と同じように審査がされていました。そして特許と同じように公開制度や公告制度があり、それぞれ公報が発行されていました。この引用文献はその当時のものです。なお、実用新案の公開公報は請求項と代表図面しか載っていませんので、明細書全文を見るにはUではなくU1を選んで下さい。公告実用新案はYです。

 実公昭54−41660号には樹脂モールドされた発光ダイオードで樹脂モールド中に蛍光体が入っているものが書かれています。ただし発光ダイオードは赤外光を発光するもので、蛍光体はこれを可視光に変換するものです。蛍光体は普通、エネルギーの高い(波長の短い)光で励起されてエネルギーの低い(波長の長い)蛍光を出すものですが、この例のように逆に低いエネルギーから高いエネルギーへ変換する特殊なものもあります。C’で長い波長に変換することに限定されたのはこの先行文献を避けるためであることがわかります。

 実開平3−24692号はより時代が近くなっており、発光ダイオードは紫外光用です。これに蛍光体をつけて長い波長へ変換するものですが、樹脂モールドは使われておらず、蛍光体は発光ダイオードの前方に置かれた透明板に付けられています。樹脂モールドが復活したのはこれとの違いを出すためでしょう。

 経過情報のこれらの文献の前に29条2項と書かれていますが、これは特許法の条文番号で、29条2項には特許になる条件として発明には進歩性がなければならないことが規定されています。進歩性がないとは、一口で言うと先行技術として知られているものとは違っても、その違いが簡単に思いつくようなものであるということです。

 上の4つの引用文献にはどれも「窒化物半導体を用いた青色発光ダイオードに樹脂モールドを付け、その中に蛍光体を入れて青色より長い波長の光を出すようにした発光ダイオード」という本件発明のすべてが書かれておらず、半導体材料が違っていたり、樹脂モールドが使われていなかったりという違いがあります。これは後の異議申立で挙げられた証拠も同じです。このような場合にはこれらの文献から簡単に思いつくではないか、という理由で拒絶がされることになります。特許庁には審査基準というものがあってどういうときには進歩性がないと判断するか一応の判断基準はあるのですが、実際に判断するときにはどちらとも言える場合もあって難しく、争いになりやすいところです。

 もうひとつの問題点としては、アイデア特許の問題があります。特許出願をするためには発明が完成していなければいけません。発明が完成しているとは、新しい発想が実行に移され、その効果が確認されていることを言います。特許の明細書には発明の実施形態あるいは実施例を通常記載します。そこには発明をどのように実施したか、その結果どういう効果があったかを書きます。ところが実際に実施していないのに実施したかのように書いたり、ひどい場合にはその時代の技術では実現できないはずのことがあたかも実施されたかのように書いてあることもあります。学術論文ではこれは捏造にあたりますが、特許では割に寛大です。

 特許庁の審査では本当に実現できるかどうかを判断するのは難しいと思いますが、専門家が読めば大体は分かるはずです。特許の目的は発明を独占的に実施できる権利を取ることですから、実際できもしないことを権利にしても何の役にも立たず、他人に害を与えることもないからいちいち目くじらを立てるほどのことではないということではないかと思います。特許は早く出願した者勝ちですから、将来生きると見れば検証が不十分であっても出願はしてしまいたいと思うと思います。他人のそういう行為を告発したのでは自分の首を絞めることにもなるといったお互い様の感覚もあると思います。

 しかし実施が十分できていないのにアイデアだけで出願され公開されてしまうと、そのアイデアがそこそこ的を射たものであれば、後でしっかりと実用に耐えるものを作ってもそれはもはや特許では保護されないことになってしまいます。確かに着想は先にあったので仕方がないとも言えますが、何か腑に落ちないところがあります。

 青色または白色発光ダイオードにもそのような側面が感じられます。GaN系半導体でpn接合ができるようになって初めて実用的なものができたわけですが、青色発光ダイオードができればフルカラーディスプレイが発光ダイオードでできるなどといったことは以前から期待されていたわけです。このため実際にそれが実用的なものとして実現したときには、改良特許的なものしかとれないといったことになってしまいます。上記の白色発光ダイオードの場合には、まったく同じ内容の先行文献はなかったので、特許になりましたが、まったく同じ内容のアイデア特許などがあっても不思議ではなかったと思います。

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