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zoom RSS アメリカ特許について(つづき)

<<   作成日時 : 2006/03/04 18:51   >>

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 アメリカ特許5,306,662のクレームと、対応する日本出願(特開平5-183189号、特開平5-198841号、特開平5-206520号)の請求項とを比較してみます。以下番号を繰り返し書くのは煩わしいので、アメリカ特許5,306,662をUS1、特開平5-183189をJP1、特開平5-198841をJP2、特開平5-206520をJP3と略記します。US1の内容は基本的には以前に調べた日本の791特許(JP1がそれに対応します)と同様でp型窒化物半導体の製造方法に関するものです。

 US1のクレーム1は400℃を越える温度での熱処理を規定していますから、JP1の請求項1に対応しています。

 US1のクレーム2は窒化物半導体がGaAlNであることに限定しています。JP2の請求項1はこの材料に限定していますが、この請求項は電子線照射に関するものなので、直接には対応する日本出願の請求項はないことになります。もちろん、JP1の実施例にはこの材料が挙げられていますので、このクレームを作ること自体は問題ありません。

 US1のクレーム3はクレーム1の温度範囲を600℃から1200℃の範囲に限定するもので、これも日本出願の請求項に対応するものがありませんが、実施例の熱処理温度の範囲はこのなかに入っています。このように数値範囲を段々狭くする書き方のクレームは日本出願でもよくあります。権利はできるだけ広く取りたい、しかしクレームの範囲内に公知の値が見つかったときにはクレームを狭く補正できるように対処しておきたい、というための対策です。またこの特許のクレーム1は「400℃を越える温度」となっていて上限温度がありません。こういう場合、それならどんなに高い温度でもいいのか、半導体が融けるような高温でもいいのか、ということになって、発明の範囲が不明確であるという拒絶を受ける可能性もあります。このためクレーム3を作っておいた方が安全ということです。

 US1のクレーム4はキャップ層に関するものですから、JP1の請求項3に該当します。

 US1のクレーム5はキャップ層の材料の種類を言っていますから、JP1の請求項4に相当します。

 US1のクレーム6は熱処理を窒素雰囲気中で行うというものですから、JP1の請求項2に該当します。

 US1のクレーム7は結晶成長材料に関するものですが、この日本出願の請求項には対応しませんが、明細書には書かれている内容です。

 US1のクレーム8はp型の添加物(ドーパント)の種類に関するもので、これも日本出願の請求項にはありませんが、明細書には書かれています。

 こうしてみるとJP2、JP3に対応するクレームは1つもないことがわかります。特許電子図書館でJP2、JP3を調べてみると、JP2は審査請求もされずに終わっていますし、JP3は拒絶査定になっています。JP3の内容はp型のU−Y族半導体の製造方法に関するもので、技術的手段は窒化物半導体に対するものと同様です。日亜化学からU−Y族半導体の製品が出たということはないと思いますので、窒化物半導体での成功を受けて、U−Y族の方も特許は押さえようということであったのではないかと思われます。しかしU−Y族のp型化についてはより多くに研究がされてきているので、先行文献も多いはずで権利化は困難であったと推測されます。

 アメリカではこの時代には公開制度がなかったので、出願時のクレームさえ包袋を取り寄せないとわかりません。取り寄せて調べればわかることですが、興味だけでそんなことをするわけにもいきません。推測だけしてみましょう。JP3が優先権主張の対象に含まれていて、実施例にもU−Y族のZnSeの例が記載されていることからみて、出願当初は対応するクレームが当然あったはずです。日本同様に審査で拒絶され、削除したのかもしれません。

 もう一つの可能性としては一つの特許に書ける発明の制限の問題があります。日本でも同じですが、1件の特許に互いに関係のない発明を詰め込むことは許されていません。アメリカの方がこの基準は日本より厳しいように思います。審査官がこれは1件の特許としては認められないと判断すると、日本では拒絶理由通知が出されますが、アメリカでは審査に着手する前にこれとこれのどっちを審査して欲しいか選ぶように言ってきます。ここで選ばなかった方は分割出願などをすれば別途審査をしてもらえますが、放置すれば取り下げたことになります。JP3もこのケースだったかもしれません。

 さて、以上のように外国出願は複数の日本出願をまとめて行うことがよくあります。これはなぜかというとまずは費用の問題でしょう。それから手間の問題もあります。国内より遠く、言葉もちがう外国での手続きはなんといっても大変です。上記の例でも外国で権利を取りたかったのはJP1の発明だったと思います。JP2とJP3は日本での結果をみてもわかるように重要度はそれほど高くなかったと思われます。1件ずつ外国に手間をかけて出願するほどのことはないけれど、関連したJP1と一緒なら出してもよいといった判断ではなかったかと推測されます。

 外国出願はなぜ国内出願より費用がかかるのでしょうか。各国の特許庁に支払う手数料はどこもそんなには違いません。しかし日本からアメリカに出願するには英語に翻訳する必要があります。特許には技術用語が含まれるだけでなく、クレームは権利文書ですので翻訳によって権利範囲が違って表現されてしまう恐れがあります。例えばよく例に出されるのが、US1のクレーム1にも出てくる”comprising”という語です。

 辞書で引くと「・・よりなる」とか「・・を含む」などといった訳語が出てきますが、学校で習う英語ではあまり登場しない語です。同じような意味では”consist”(・・からなる)とか”include”(・・を含む)などの方がおなじみではないかと思います。compriseとconsistの違いは何かというと、compriseは「・・を含む。でもそれ以外のものを含んでもよい」という意味で、consistの方は「・・からなる。それ以外のものは含まない」という意味なのだそうです。そこでクレームを広く解釈できるようにするためにcompriseが好んで使われるのです。

 学術論文は研究者が自分で英文を書くことが多いと思いますが、特許の場合は時間的な制限もあって専門の翻訳者に依頼するのが普通だと思います。英語はともかく他の言語となると自分で書ける人は非常に少ないはずです。ということでまずは翻訳に費用がかかります。

 また各国の特許庁は普通はその国にいる人としかやりとりをしません。外国と通信をして手続きをするのは非常に手間がかかるからです。では外国に出願するときどうするかというとその国に代理人を立てることになります。その代理人をどうやって探し、どうやってやりとりするかというと、国内にもそんなことをよく知っている代理人を置いた方が楽ということになります。つまり二重に代理人をおくことになると、その代理人に支払う費用がかなりかかってしまいます。

 複数の日本出願を1件にまとめると翻訳費用は少し増えますが、代理人費用は節約できます。ただむやみにたくさんの件をまとめると上記のように再度分割しなければならなくなって、場合によるとかえって高くつくこともあるので、注意が必要です。

 このような外国への出願の煩わしさを少しでも和らげようとする仕組みがあります。国際出願(PCT出願)について次回は触れてみたいと思います。

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