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<<   作成日時 : 2007/04/15 12:37   >>

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 MESFETはゲート絶縁膜が不要なので移動度の大きいGaAsなどの化合物半導体のFETが実現できます。しかし実際に高速なFETを作ろうとすると問題も出てきました。いかに移動度が大きくてもチャンネルに電子があまり多くいないようではソース−ドレイン間に十分な電流を流すことができず、トランジスタの性能としてはよくありません。チャンネルとなる半導体中に多くの電子を供給するためには、ドナーとなる不純物をたくさん導入すればよいのですが、これをすると問題が起こります。

 電子がチャンネルを走行するとき、チャンネルが例えばGaAsならGaとAsが整然と並んだ結晶であれば、電子は期待通りの大きな移動度を持ちます。ところがここに不純物がいると電子はそれに引っかかってスピードが落ちてしまうのです。

 この問題を解決するために開発されたのがHEMT(ヘムトと読みます)です。High Electron Mobility Transistorの略で、日本語に訳せば高電子移動度トランジスタです。この命名はこのトランジスタを提案した富士通社によるものですが、教科書などにも載ってかなり有名になっています。この命名にケチをつけるわけではありませんが、HEMTは商品名としてはよくてもこのデバイスの中身を表していないように思われます。MOSFETやMESFETの名前はその構造に由来します。ところが高電子移動度というのは結果としてのトランジスタの特性、特徴を言っているもので、どのような構成をとったから高い移動度が実現できたのかを表していないのです。

 同様なトランジスタの呼び名として外国で使われているMODFETというのがあります。このMODはModuration Doped、変調ドープの略です。この変調ドープの意味についてはこれから説明しますが、特徴となる構造を示しています。これをそのまま採用する必要はありませんが、一般名称としては再考の余地があると思います。

 話が脇道に逸れてしまいました。HEMTの原理に話を戻します。ここでも特許を使って説明します。富士通社から提案がなされたのは1980年です。最初の特許は前年(1979年)の年末に出願されています。権利になったのは特公昭59-53714号です。これにはかなり詳しく原理の説明がなされています。

 化合物半導体の世界ではヘテロ接合の研究が多くなされ、非常に薄い膜を重ねた量子井戸あるいは超格子というものが登場してきました。この量子井戸層は井戸層と障壁層を交互に重ねたものですが、井戸層はバンドギャップエネルギーの小さいもの、障壁層は大きいものである必要がありますから、基本的に違う材料の重ね合わせ、つまりヘテロ接合の繰り返しとなります。

 この井戸層と障壁層には必要に応じて不純物を入れてもよいし、入れなくてもよいのですが、井戸層と障壁層の不純物を同じにする必要はなく、変えることもできます。このように井戸層と障壁層に入れる不純物の種類、量が違っていることを変調ドープと呼んでいます。HEMTでは多層の量子井戸を使っているわけではありませんが、一方の層に不純物を多くドープし他方の層には不純物をドープしない構造をとっています。画像

 図Aは上記特許に載っている図面ですが、HEMTの基本構造を示しています。一見MOSFETと同じに見えます。GaAs基板20の上にGaAs層22が成長されています。このGaAs層には不純物がドープされません(特許にはドープしてもよいがしない方が望ましいという書き方がされています)。層22は絶縁層に見えますが、半導体層です。具体例としてはAlGaAs層で、この層にはn型不純物がドープされます。ゲート電極30、ソース電極31、ドレイン電極32の役割はMOSFETと同じです。

 ここでFETのチャンネル53はGaAs層にあるのがわかります。GaAs層には不純物はドープされていないので、移動度は高い状態に保たれています。そしてチャンネルを走行する電子はAlGaAs層から供給されます。その様子を示したのが図Bです。この図はHEMTのエネルギーバンド図です。

 真ん中の層1がAlGaAs層、右側の層2がGaAs層、左側の層10がゲート電極の金属層を示しています。AlGaAsはGaAsよりバンドギャップエネルギー(EとEの差)が大きいので、絶縁膜に近いはたらきをしてゲート電極からチャンネル層へ電子が流れ込むのを防ぎます。しかし不純物がドープされたn型半導体ですから、図のように金属との界面側はショットキー障壁による空乏層11ができ、GaAsとの界面はヘテロ接合による空乏層12ができる複雑な状態になります。

 大事なことはAlGaAsとGaAsのバンドギャップエネルギーが違うため、GaAsの表面付近、つまりチャンネルとなる14と書かれた部分は図のように谷間のようになって電子が貯まります。この電子はGaAsには不純物がドープされていないので、ゲート電圧によって高速で移動することができ、これによって高速で動作するトランジスタができるのです。なお、14の部分は薄い面内にたくさんの電子がその動きを妨げれることもなく漂っているような状態になりますので、2次元電子ガス(略して2DEG)と呼ばれることがあります。

 電子が走る層(ノンドープGaAs層)と電子を作り出す層(n型AlGaAs層)を分離するという非常に巧妙な手段によりHEMTという高速トランジスタが実現されたわけです。HEMTはとくに高速な動作が必要な携帯電話や衛星放送のアンテナ部分などに多く使われています。

 さてこれまで電界効果トランジスタについていろいろお話してきましたが、1年ちょっとかかってしまいました。ようやくこれで大体終わりです。つぎは何の話に行きましょうか。

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