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zoom RSS 半導体レーザの初動作

<<   作成日時 : 2007/09/02 19:45   >>

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 半導体レーザのアイデア、言い換えればpn接合に電流を注入することによるレーザ動作についてのアイデアは1960年以前にすでにありました。それではこのアイデア通りのレーザ発振はいつ頃確認されたのでしょうか。

 これはかなりはっきりしています。1962年にアメリカの4つの研究機関から相前後して発表があったのです。4つの研究機関とはゼネラルエレクトリック(GE)社、IBM社、マサチュセッツ工科大学(MIT)、イリノイ大学です。これはアメリカでは大学や企業で競って研究が行われていたことを示しています。

 この段階ではまだ基礎研究ですから、学会発表、速報論文による発表が中心です。しかし最初の成功を伝える特許も出願されているはずと思い、調査してみました。日本への出願としてはIBM社からのものが見つかりました。特公昭41-16458号がそれです。アメリカでの最初の出願は1962年10月15日となっています。対応するアメリカ特許は3265990号です。

 4機関の中でもっとも早く成功したとされるGE社の特許は日本には出されなかったようですが、アメリカ特許は見つかりました。3245002号で、1962年10月24日の出願です。特許出願ではIBM社からわずかに遅れています。

 まずはIBM社の日本特許を少し読んでみましょう。英文からの翻訳なので、技術用語が適当でないなどやや読みづらいところがあります。わかりにくいところはかえって原文の英語を見た方が確かです。

 図は実施例の図面です。半導体レーザ素子はpn接合ダイオード1です。半導体材料は砒化ガリウム(GaAs)で、テルルをドープしたn型基板4に亜鉛を拡散させてp型層3を作りpn接合としています。p側電極はインジウム7です。n側電極は日本語訳ではよくわかりませんが、原文を参照するとコバールという合金のワッシャ5に金メッキしたものを貼り付けたとされています。つまり穴の開いた電極で中央の穴の部分から光を取り出しています。これまで説明してきたような光共振器も導波路もなく、普通のpn接合発光ダイオードと変わらない素子です。
画像


 当時のアイデアに従えば、このような素子でも原理的にはレーザ発振させることができるはずです。それには電子と正孔を大量に供給するため大電流を流す必要があります。まず接合部分の面積を1×10-4cm2、すなわち0.1mm角と小さくしています。ここに数アンペア以上の大電流を流します。流し放しでは素子はすぐ壊れてしまいますので、50ナノ秒という短い間だけパルス電流を流します。

 室温ではこれでも壊れてしまうので、図のようにダイオード1を液体窒素21に漬けた状態で実験します。液体窒素は窒素ガスが液化したもので、ものを冷やす必要がある実験にはよく使われます。大気圧の条件では77K、すなわち-196°Cが沸点です。液体は電気を通しませんので、ダイオードやそれにつながる電線などをそのまま液に漬けて実験ができます。また液は透明ですから発光した光は液を通して観察することができます。

 ただし室温に置いたのではすぐに蒸発してなくなってしまいますから、魔法瓶のような容器20に入れて使わなければなりません。発光の実験ではこの容器20に光を取り出す窓22が必要です。

 実験でレーザ発振、すなわち誘導放出が起きていることをどのように確かめているかというと、発光波長の広がりを見ています。自然放出の場合は発光波長にはやや幅がありますが、誘導放出が起こると非常に狭い波長範囲の光だけが増幅されますので、発光波長の幅が狭くなるのです。

 図をもう一度みると、窓22を出た光は分光器23に入ります。分光器は非常に狭い波長範囲の光だけを通し、その波長成分が測定している光に含まれているかを調べる装置です。この分光器からでた光はフォトマルという光検出器24に入り、電気信号に変えられます。ダイオードに流した電流は短いパルスですから、発光もパルスです。このため光検出器から出てくる電気信号もパルスですから、これを観測するのはオシロスコープ25ということになります。

 分光器の波長を少しずつ変えながら光の強度を測定し、発光波長の幅を測定するのはかなり大変な実験と思いますが、この特許には非常にたくさんの生の実験データが表にされて載っています。一番上の欄の試料番号17-19-12のデータを見てみましょう。

 温度77K(液体窒素中)で4〜28アンペアという短いパルスとはいえ、ものすごい電流を流しています。このときの発光波長(長さの単位で示すなら表に示されている「光放出周波数」というのは間違いです)は8400オングストローム(A)前後です。これはもっとも強度の強い中心の発光波長の意味です。なお、現在では国際的な取り決めで単位はMKS単位系を使用しますので、オングストロームという単位はもう使いません。1オングストロームは0.1nmですから、換算は簡単です。以後ここでもnmを使います。

 さて表の実験データの次の欄、誘導放出と書かれた欄をみると、幅というデータが載っています。これが発光波長の広がりを示しています。例えば一番上の欄のデータは電流が4アンペアのときは波長840.0nmを中心に7.8nmの広がりをもった発光であることを示しています。この広がりは電流が20アンペアを越えると急激に狭まっています。表の下の方をみると、幅が1nm以下になっている場合もあります。このような現象は誘導放出が起こっているためとする以外には説明が難しいでしょう。

 半導体への電流注入によるレーザ発振の最初の実験は低温に冷やして大電流パルスをかけるという実用にはほど遠いものでしたが、とにかく誘導放出は起こりうることが示されたという点で大きな意義がありました。

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