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zoom RSS InP系半導体レーザ

<<   作成日時 : 2008/01/13 21:44   >>

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 半導体レーザはこれまでお話してきたようにまずはGaAsとAlGaAsのヘテロ接合を使って実用化されるに至りました。この組み合わせは幸運にもGaAsとAlAsの格子定数がほとんど等しいため、その中間の組成のAlGaAsはAlとGa比率を変えても格子定数がほとんど変化しません。そのためGaAs基板上に任意の組成のAlGaAsの結晶を作ることができました。逆に言うと格子定数が違う材料の組み合わせでは欠陥の少ない結晶を成長させることは難しいわけです。

 一方でGaAsとAlAsのバンドギャップエネルギーはGaAsが1.42eV、AlAsが2.16eVとかなり異なります。バンドギャップエネルギーと発光波長は逆比例の関係にありますから、活性層のAl成分を増やしていくと、発光波長は短くなっていきます。ただしAl成分をある程度以上増やすと急激に発光しにくくなる性質があるため、実用になる波長範囲は0.78〜0.87μm程度です。

 ところで半導体レーザが実用化に向かって進み始めた時点で考えられていた重要な応用先は光通信でした。非常に損失の小さい光ファイバも半導体レーザの開発と時を同じくして開発されましたので、光を使って大量の情報を伝送しようという夢が具体的になってきました。ところが1970年代後半になって、石英ガラスを使った光ファイバの損失が小さくなる波長は1μmより長い、1.3.μm付近と1.55μm付近にあることがわかってきました。

 しかしGaAs/AlGaAsを使ったレーザでは1μmより長い波長を発光させることは不可能です。そこで別の材料を探す必要があります。同じV−X族のなかでGaAsよりバンドギャップエネルギーの小さい材料を探すとInP(1.35eV)やGaSb(0.73eV)があることが分かります。ただし望みの発光波長にぴったり合わせるにはやはり3種類とか4種類の元素からなる混晶を使う必要があります。

 しかし今度はAlGaAsのようなわけにはいかず、組成を変えると格子定数も変化してしまうという問題が出てきます。この辺りの考え方が書かれている初期の特許がありますので紹介しておきます。1973年出願の特開昭49-71885号です。出願人はアメリカのヴァリアン社で、アメリカでは1972年に出願され一部が特許になっています(米国特許3982261号)。

 図Aはこの特許に載っている図面ですが、縦軸がバンドギャップエネルギー、横軸が格子定数で、いろいろなV−X族化合物半導体をプロットしてあります。図の中央やや左上の縦に並んだ位置にGaAsとAlAsがあります。縦に並んでいるということは格子定数がほぼ等しいということです。AlGaAsはこの2点を結んで描かれている曲線(ほぼ直線とみてよい)上にきます。画像

 ところがInPをみると、GaAsよりかなり右側にあり、格子定数がGaAsとはかなり違うことがわかります。GaAsは約0.565nm(図では長さの単位がオングストロームですが、現在ではこの単位は使わず、ナノメートルに統一することになっています)で、InPは約0.586nmですから、その差は0.021nm、つまり違いは3〜4%程度です。この程度の違いでも、例えばInP基板の上にGaAsを成長するとよい結晶はできません。

 図にはInPの点から下に向かって破線が引かれていますが、この線上にある物質ならばInPと格子定数が一致していますから、InP基板上によい結晶が作れるのです。この線上にくるような物質はInGaAsPといった混晶を採用することで作ることができます。

 どういう組成比にしたら望みの物質が得られるかは、少しずつ組成を変えた結晶を作ってバンドギャップエネルギーと格子定数を測定して決めなければいけませんが、この特許にはそのデータが掲載されています。

 図Bを見て下さい。複雑な図ですが、横軸はInAs1−xのAsの組成xを示しています。左端はAsが0のInPで、右端はAsが100%、つまりPが0のInAsになっています。縦軸は同じようにGaIn1−yPのGaの組成yを示しています。図に描かれている実線の曲線はバンドギャップエネルギーが一定の線です。0.5〜1.9eVの線が0.1eV刻みで描かれています。破線の曲線は格子定数が一定の線で0.6nm以下0.05nm間隔で線が引かれています。

 この特許が出願された1970年代前半にはまだ光ファイバの特性についてよくわかっていなかったので、この特許では発光波長を1.06μmに合わせることが目標になっています(この波長はネオジウムをドープしたYAGレーザという固体レーザの波長で、これに一致する波長の半導体レーザを作るのが目的になっています)。

 波長(単位:μm)とエネルギー(単位:eV)の間の反比例定数は1.24と覚えて下さい。1.24を波長の1.06(μm)で割ると1.17(eV)が得られます。図Aにこの数字が記されています。図Bの左下に白丸が書かれていますが、これは格子定数が0.586nmでバンドギャップエネルギーが1.17eVである点にプロットされています。この点からxとyを読むと、X=0.22、y=0.09が読み取れます。つまりGa0.22In0.78As0.090.91の組成の混晶を作れば、InPに格子定数が一致し、かつバンドギャップエネルギーが1.17eVになるわけです。

 同様にして発光波長1.3μmと1.55μmの混晶の組成xとyを求めてみて下さい。波長1.3μmは0.95eVに相当しますから、x=0.55、y=0.24程度、波長1.55eVは0.80eVに相当しますから、x=0.80、y=0.35程度と読み取ることができます。図のようなデータができていればこのように求めることができるのですが、新物質ではここに至るまで大変です。

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