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zoom RSS 垂直共振器型面発光レーザ

<<   作成日時 : 2008/03/16 18:15   >>

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 レーザ光を基板面から垂直方向に取り出すには、前回説明したように従来通り基板面に平行な方向に発生させたレーザ光を鏡や回折格子で折り曲げる方法があります。しかしそのようなことをせずにはじめから基板面に垂直な方向にレーザ光を発生させられないでしょうか。

 基板面に垂直方向にレーザ光を出すには光共振器を基板に垂直方向に作る必要があります。つまり反射鏡を基板面に平行にするわけです。このような半導体レーザを垂直共振器型面発光レーザと言います。英語ではVertical Cavity Surface Emitting Laserで、その頭文字をとってVCSEL(ヴィクセルと発音されます)と略称されることもあります。

 この垂直共振器型面発光レーザは東京工業大学の伊賀健一教授(現、学長)によって提案され、実現されたことはよく知られています。以前にも紹介したように新しいタイプの半導体レーザはまず極低温に冷やした状態でパルス電流での動作が確認がされるのが普通です。このVCSELも例外ではなく、初めて動作が確認されたのは液体窒素温度(77K)でのパルス動作で、1979年のことです。画像

 その翌年の1980年に特許が出願されています。特開昭56-98888号(特公平1-56547号)がそれです。図AはVCSELの基本的な構造を示す特許図面です。この特許に示されている実施例はInGaAsP/InP系の長波長用レーザです。実はこの後、最初に実用化に至ったのはAlGaAs/GaAs系の短波長用レーザだったのですが、初期の研究は光通信への応用を目指してInP系が注目されていました。GaAs系が先に成功に至った理由は後で説明しますが、当時は酸化による劣化が起こりやすいAlGaAs系の方が難しいと考えられていたように記憶します。

 さて図に戻ると、上下反転していますが、InP基板1の上にn型InP層2、GaInAsP層3、p型InP層4が積層されています。これもダブルヘテロ構造になっていて発光が起こる活性層はGaInAsP層です。InP基板の裏面とInP層4の表面に電極7、8が付けられています。ただし電極を全面に着けたのでは、大きな電流が無駄に流れてしまいますから、InP層4表面にはSiO絶縁層5を設け、発光させる部分3Aの直下の部分だけ絶縁層を除いて、7Aの部分だけから電流が流れこむようにしています。

 この例ではレーザ光12はInP基板側から取り出しています。InPはGaInAsPよりバンドギャップエネルギーが大きいので、活性層で発生した光はInP基板を透過します。共振器の反射鏡は電極である金属が兼ねています。とくにInP基板裏面の光を取り出す部分は金(Au)膜9を薄くして半透鏡にしています。反対側からは光を取り出さないので、電極7Aは光を透過するように薄くする必要はありません。

 このような構造によって、活性層3Aで発生した光は2枚の反射鏡7Aと9を往復しながら増幅され、Au膜9を通して基板面に垂直方向に放出されます。こう説明すると、何の難しさも感じられず、横のものを縦にしただけではないかと思われるのではないでしょうか。しかし実際には横型の端面発光型に比べると実現を難しくする問題点がありました。

 端面発光型と垂直共振器型の大きな違いは光共振器のなかの活性領域の長さです。端面発光型の場合は基本的に共振器長と同じ長さの活性層内で発光が起き、光増幅されます。共振器長は数100μmの長さがとれますから、その間を光が往復走行して増幅されます。一方、垂直共振器型の場合は、光が往復して増幅されるのは、エピタキシャル層の厚みでしかありませんからせいぜい数μmで、端面発光型の1/100程度です。

 この違いはどういう影響をもたらすでしょうか。それは光増幅の利得の違いです。端面発光型では共振器長が長くとれ、その間を光が走行する間、増幅されますので、利得は大きくなります。しかし垂直共振器型では共振器の中の一部の短い区間でしか光が増幅されないので、利得が小さくなります。利得が小さいとそれだけレーザ発振は起きにくいことになります。

 この問題の解決法としてすぐ思いつくのは垂直共振型の活性層の厚みを思いっきり厚くしてやることです。しかしこれは実際には難しいのです。エピタキシャル成長というのはあまり早くはできません。高速に成長させると普通は結晶の質が悪くなってしまいます。ゆっくりゆっくりていねいに積み重ねないとだめなのです。そのため今の100倍も時間をかけるのは無理な話です。また例え時間の問題が解決したとしても、エピタキシャル層は厚くなるにしたがって欠陥が増えるなど概して結晶の性質が悪くなります。数100μmも品質のよい結晶を成長させるのは現在の技術では無理です。

 もう一つの問題は、電流と光の閉じ込めをどうするかです。分厚い活性層ができたとしても全体に電流を流せば電流が大きくなって素子が長くもちません。図Aのように電極面積を小さくしても厚い層になると電流が広がってしまいます。この特許には電流を閉じ込めるために図Bのような構造も提案されています。これは端面発光型の埋め込み層と同じ発想です。発光領域以外の部分は逆バイアスがかかるようにして電流を流さないようにした構成です。抵抗の高い層を使う方法もあります。しかし層が厚いと細い柱のような部分を残して周りを埋め込まなければならず、これは至難の技です。

 このように活性層を分厚くするのは難しそうです。そうしないで何とか利得を確保する方法はないでしょうか。この問題の解決策は次回に。

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