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zoom RSS 光電子増倍管(比較のために)

<<   作成日時 : 2010/02/21 19:15   >>

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 受光素子についての最初のエントリーで、半導体素子ではない光検出器である光電子増倍管が現在でも重要な地位を保っているので、いずれ取り上げたいと書きました。半導体受光素子の紹介が一通り終わったので、ここで比較のために光電子増倍管を取り上げてみたいと思います。

 この光電子増倍管は光電効果という現象を利用しています。光電効果は金属に光を当てると電子が空中に飛び出してくるという現象で、現象自体は19世紀には知られていました。しかしある波長より短い波長の光を当てない限りいくら強い光を当てても電子は飛び出さないことなど当時は説明がつかない現象でした。20世紀初頭になってアインシュタインは光量子仮説を唱え光電効果を説明することに成功しました。

 光は波長に反比例するエネルギーをもった粒子としてはたらき、これが原子に衝突すると原子内の電子のエネルギーを上昇させます(これを励起といいます)。電子がある程度以上高いエネルギーをもつと原子から離れて自由になり、さらにある程度以上のエネルギーをもつと物質表面から外へ飛び出せるようになります。これが光電効果です。
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 半導体受光素子でも半導体に光を当てると電子が自由に動けるようになることは何度も説明しました。この電子は半導体中に留まり外へは出ませんので、これを内部光電効果といい、外へ飛び出す方を外部光電効果と言って区別することがあります。しかし内部光電効果という用語はあまり使われなくなっているので、単に光電効果と言えば物質の外へ電子が飛び出す現象を表すと思ってよいと思います。

 図Aのように中を真空にしたガラス管に2つの金属電極を入れて電圧をかけておき、マイナス側の電極(陰極とかカソード電極といいます)に光を当てます。光が一定以上のエネルギーをもっていれば、言い換えればある波長より短い波長であれば、電子が空中に飛び出し、電界に引かれてプラス側の電極(陽極またはアノード電極)に向かって飛行してやがてアノード電極に到達します。これによって2つの電極をつなぐ外部回路には電流が流れ、光が検出できます。この真空管のことを光電管と呼びます。

 2つの電極のうち光を受けて電子を出すカソード電極は、フォトカソード、光電陰極などと呼ばれますが、光電管の性能を決める重要な要素です。カソード電極はよく光を受け止めるように面積を大きくするのに対し、アノード電極は逆に光を遮らないように細い線にしたりします。

 またカソード電極の材料によって、電子の飛び出しやすさが変わるので、材料の選び方が重要です。検知する波長によってもっとも感度のよい材料を探す必要があり、過去に多くの研究がされています。金属ではセシウム(Ce)が使われることが多く、近赤外光、可視光、紫外光など目的とする波長域によって、銀とかアンチモンとかが混ぜられています。電極全体をこのような金属にする必要はなく、銅板などの表面にこれらの金属の薄い膜を着けるのが普通です。CdSなど半導体膜が使われることもあります。

 この光電管は現在ではその多くが半導体受光素子に置き換えられ、ほとんど使われていません。確認したわけではありませんが、おそらくほとんど生産されていないと思います。ただ半導体受光素子は暗電流がやや大きいなどの理由から非常に弱い光の検知には問題があります。この分野で現在でも使われているのが光電子増倍管です。これも光電管の一種なのですが、通常の光電管は飛び出した電子をそのままアノードに引き寄せるだけなのに対し、光電子増倍管は電子の数を増やす機能をもっています。

 この電子を増やす装置を電子増倍器(electron multiplier)といいますが、これと光電陰極とを組み合わせたものが光電子増倍管です。英語ではフォトマルチプライア(photomultiplier, 略してPMT)ですが、日本ではこれを縮めてホトマルと呼ぶことも多く、この呼び名で親しまれてきました。

 この光電子増倍管の発明は1930年代後半にアメリカのRCA社によってなされたと言われています。同社の初期の特許の図面を使って原理を説明します。図Bは1937年に出願されたカナダ特許400871号によるものです。

 細長いガラス管Iのなかにたくさんの電極が入っていますが、一番右側の電極がカソード電極1です。マイナス電圧がかけられているのがわかります。このカソード電極に上の方の光源Lから光が当てられ、電子eが発生しています。この電子はカソードよりプラスの電圧がかけられた電極2に向かって加速されます。このカソードとアノードの間にある電極をダイノードと呼びます。

 電子は電極2に衝突し跳ね返りますが、加速されてエネルギーが高まっていますから、そのエネルギーを電極2内の原子に与えて新たな電子を飛び出させます。電子が当たって飛び出る新たな電子のことを2次電子と呼びます。もとの電子と2次電子はさらに少し高い電圧の電極3に向かい、ここでさらに2次電子を発生させます。同じように電極4,5,6と進むうちに電子はねずみ算式に増え、最後にアノード電極7に達します。アノードで大量の電子が電流となって外部へ流れるので、最初に発生した光電子がわずかでも大きな電流が得られます。

 以上が光電子増倍管の原理ですが、アバランシェフォトダイオードの原理と似ています。アバランシェフォトダイオードでは半導体内で電子が原子に次々と衝突して増えていきましたが、光電子増倍管は空中を飛ぶ電子で同じような増倍を起こしています。順番は逆でアバランシェフォトダイオードの方が光電子増倍管からヒントを得ているのかも知れません。

 ダイノードは図のように平板でなく、電子が拡散しないように曲面にしたりします。また他に収束用の電極を設けたりすることもあります。

 例えば1個の電子が当たると5個の2次電子が発生すると、ダイノードを10個設けた場合、1個の電子は5の10乗倍に増えることになります。これはおよそ1000万倍に当たります。アバランシェフォトダイオードの増倍はせいぜい1000倍ですから、この増倍率は非常に大きいと言え、これが光電子増倍管が生き残っている理由です。

 小柴昌俊先生のノーベル賞受賞でよく話題になったスーパーカミオカンデで、ニュートリノの観測に直径50cmもある大きな光電子増倍管が1万本以上も使われています。これはニュートリノとの相互作用によって水分子のなかの陽子が発する極めて弱い光を観測するのが目的で、このような目的に現状では半導体受光素子は使えません。

 また直径数μmの細い管のなかに電子を入れ、そこで電子を増倍させる方法もあります。金属や半導体の板に貫通孔を多数並べて開けたものをマイクロチャンネルプレートと言いますが、この多数並んだ孔に光電子を入れて増倍させると光の強度分布すなわち画像情報が観測できます。イメージインテンシファイヤと呼ばれるのがこれです。別のところで説明したCCDなどと組み合わせて使われます。

 光電効果は応答が速いので、高速現象の観測にも使われます。話が本題から逸れるので詳しい説明はしませんが、ストリークカメラはその一例です。このように光の検出に関しては半導体受光素子以外に光電効果の特徴を活かした素子や装置が活躍しています。 
 
 

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