石くれと砂粒の世界

アクセスカウンタ

zoom RSS 孤立した原子からの近似(その1)

<<   作成日時 : 2011/03/06 20:33   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

 前回まで長い間、紹介してきたのはほとんど自由な電子のモデルでした。もとはと言えば、膨大な数の原子を含む固体結晶についてシュレーディンガー方程式を解くことは到底難しく、何らかの近似が必要とされたためです。
画像
 結晶中でほとんど自由に動けるものの周期的に並んだ原子によるポテンシャルエネルギーの影響は受けると考えるのが、ほとんど自由な電子のモデルですが、ほとんど自由に動ける電子をもっているのは金属のような電流をよく流すような物質です。

 電流をほとんど流さない絶縁体を自由電子に近いモデルで説明しようとするには無理があります。そこで考えられたのがほとんど自由な電子とは対極にあるほとんど動けない電子のモデルです。ほとんど動けないというのは原子に捉えられているということで、完全に電子が捉えられている孤立した原子から出発した考え方です。本書(*)も「孤立した原子からの近似」という節を設けてこのモデルの理論を扱っています。

 まず孤立した原子に捉えられた電子について復習しておきます。もっとも簡単な水素原子は図Aのように原子核の周りを1個の電子が円運動するモデルで考えられます。古典力学では遠心力と正負の電荷が引き合うクーロン力が釣り合うと考え、次式から出発します。
   (1)
ここでvは電子の速度、rは軌道の半径、ε0は真空の誘電率です。

 一方、量子力学の仮定では角運動量はの整数倍しかとれないので、
   (2)
です。ここでn=1,2,3,・・・で、この数を量子数と呼びます。(2)式を(1)式に代入すると
   (3)
が得られます。このrがボーア半径です。

 電子のエネルギーは運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和で、
 
     (4)
となり、とびとびのエネルギーとなることがわかります。

この式ではn以外は値が分かっている定数ですから、n=1,2,3を入れて計算すると、エネルギーの値が計算できます。数値をあげるとn=1のとき-13.6eV、n=2のとき-3.4eV、n=3のとき-1.5eVとなります。
画像
 3次元で考えた実際の原子では量子数はnの一種ではなく、他の3種類あることが知られています。上記nを主量子数といい、他に方位量子数、磁気量子数、スピン量子数があります。以下で直接必要なのは主量子数nと方位量子数l(エル)です。

 nは1,2,3・・・の自然数ですが、lはnから1を引いた数、0,1,・・・(n−1)です。方位量子数には記号がついていて、l=0がs、1がp、2がd、3がfと呼んでいます。n=1〜3の各軌道に入れる最大電子数は以下の通りです。

   n  l  記号  最大電子数
   1  0  1s    2
   2  0  2s    2
   2  1  2p    6
   3  0  3s    2
   3  1  3p    6
   3  2  3d    10

 具体例としてNa原子を考えます。Naは原子番号が11ですから、電子11個をもっています。電子は原則として主量子数の少ない方から、つぎに方位量子数が少ない方から詰まっていきますから、1s、2個、2s、2個、2p、6個の計10個が軌道に詰まります。残りは1個で、これは3sに入ります。このような電子配置を
 
という書き方をすることがあります。
画像
 なお、ここでは詳細は触れませんが、2sと2pの電子のエネルギーは異なります。主量子数が同じなら方位量子数が大きいほどエネルギーは大きくなります。この様子を図Bに示しました。

 以上は孤立した原子の話ですが、結晶のように原子が接近するとどのようなことがおこるでしょうか。図Cのように接近した原子と原子の間ではエネルギーの障壁が下がることが予想されます。そうなるとエネルギーの高い電子は隣の原子へ移ることができるようになると考えられます。

 このような考え方で電子は原子に強く引きつけられているものの、原子間で移動ができるようになるような状態を取り扱うのが、孤立した原子からの近似です。これは強く束縛された電子のモデルとも言われます。「強く束縛された」というのは英語の"tight binding"の訳です。次回は数式を使った解析を紹介します。

(*)植村泰忠、菊池誠著、「半導体の理論と応用(上)」、裳華房

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
孤立した原子からの近似(その1) 石くれと砂粒の世界/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる