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zoom RSS 材料選択範囲の拡大手段(その1)

<<   作成日時 : 2012/09/03 23:12   >>

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 前回までの話では発光ダイオードの発光層の材料は直接遷移型でかつ基板と格子整合する必要があるということになります。しかしこの制限はかなり厳しく、この範囲だけで材料を選ぶと、その範囲は非常に限られてしまいます。

 AlGaInN系(以下GaN系と略記します)の例で説明します。前々回この系のベースになるAlN、GaN、InNのバンドギャップエネルギー、格子定数の数値を示していませんでしたので、これを入れて図Aに示します。
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 GaAsやInPなどの結晶は閃亜鉛鉱型と呼ばれる立方晶で原子は立法体の頂点に並んでいますが、GaN系は立方晶にもなりますが、ウルツ鉱型と呼ばれる六方晶の方が安定です。六方晶では原子は六角柱の頂点に並んでいますから、立方晶と違って方向によって格子定数が異なります。図中cと示した数字はc軸と呼ばれる六角柱の軸方向の格子定数で、aと示した数字はa軸と呼ばれる六角柱の底面の六角形の辺の方向の格子定数です。前回の図は、断わりませんでしたが、GaAsなどと大きさが近いc軸方向の格子定数の値を使って描いています。

 さて、このGaN系にはエピタキシャル成長に用いるためのよい基板がないのが問題です。GaNのバルク結晶は現在もよい成長技術がなく、実用的な大きさをもつ単結晶はできていません。気相成長法で分厚いGaNのエピタキシャル結晶層をサファイア基板などの上に成長させ、サファイア基板を剥がしてGaN基板として使うことは行われていますが、素子を支えるのに十分な厚さを成長するのはなかなか大変です。

 一般に基板として使われているサファイア(酸化アルミニウム結晶)は、同じ六方晶ですが、格子定数はc軸が1.30nm、a軸が0.476nmでGaN系と大きく異なります。なぜこれが他の半導体基板などを使うよりよい結果が得られるのかはあまりよく分かりません。

 しかしサファイア基板に直にGaNなどを成長すると、やはり格子定数が大きく違うのでより結晶層は得られません。通常はバッファ層と呼ばれる層を基板上に形成し、その上にGaNなどを成長させます。

 このバッファ層をどのように作るか、その方法はほぼ確立しています。材料としてはこの上に成長する結晶層と同類のGaNやAlNなどが通常使われます。重要な点は成長温度を低くすることです。結晶層を成長するときの温度は1000℃以上にするのが普通ですが、バッファ層は600℃程度以下の温度で成長させます。このバッファ層上に成長温度を高くしてGaNなどを成長すると発光素子などを作るのに十分な質をもった結晶層が成長できます。

 これもなぜうまくいくのか、諸説があってよくわかりません。低温で成長するためきちんとした結晶は得られませんが、膜質が柔らかいために上下の結晶に格子定数に違いがあっても歪みが吸収されてしまうということはあるでしょう。しかし結晶性のよくない層の上になぜ質のよい結晶膜が成長するのかという疑問にはこれでは答えられません。極性のないサファイア上にGaNのような極性のある結晶を成長するために、バッファ層は極性を定める役割を果たしているという考えもあります。

 さてGaN結晶層がバッファ層上に成長できたとして、その上にLED構造を積層しますが、これらの積層構造がすべてGaNに格子整合していなければならないとすると、AlGaNやGaInNの三元混晶はいかなる組成を選んでも使えないことは図Aから明らかです。AlGaInNの4元混晶を使えば図の破線上にくる結晶を得ることは可能ですが、発光波長はGaNより短波長になってしまうので、青色など可視光の発光は実現できません。またGaAsと整合する組成もありますが、こちらはInNに近い組成で、発光波長は赤外域になってしまいます。

 実際の青色発光ダイオードはどういう層構造になっているか、もっとも初期の日亜化学社の構成をみてみましょう。発光ダイオードの基本構成は図B(特開平6-268259より)のようになっていると考えられます。サファイア基板1の上にGaN(またはAlN)バッファ層2が510℃という低温で成長されます。その上にn型のコンタクト層となるn型GaN層3が成長されます。その上にn型クラッド層4、発光層5、p型クラッド層6が形成されます。最上層はp型GaNコンタクト層7となります。両コンタクト層3、7の上に電極8、9がそれぞれ設けられて発光ダイオードの基本構造となります、
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 青色発光のための発光層、クラッド層の構成は特開平6-177423や特開平6-209120にいくつかの例が記載されています。そのなかの一例は次のようになっています。発光層5はIn0.14Ga0.86Nです。それを挟むクラッド層4,6はn型とp型のGa0.9Al0.1Nです。この場合の発光波長は400nmです。

 この例では、発光層とクラッド層はInGaNとAlGaNの三元混晶ですから格子定数は一致していないはずです。これでなぜ大丈夫なのでしょうか。その理由はつぎのように説明されます。下地結晶層の上に格子定数の違う同種の材料の結晶層を成長すると、成長する結晶層は下地層の格子定数に合わせるように自分自身は無理やり伸びたり縮んだりします。これによって成長した層内には歪みが発生します。しかし層の厚みが薄いと歪みがかかっても層は歪みによる応力に耐え、層の破壊されないで済みます。このような層を歪層といいます。しかし層の厚みがある限界を越えると層が割れてひび(クラック)が入るなどして欠陥が生じます。

 つまり層の厚みを薄く抑えておけば、格子整合した組み合わせでなくても欠陥の少ない結晶層(歪層)を作ることができます。GaN系発光ダイオードはこの考えを使って作られています。上記の例では発光層の厚みは20nmです。薄い層というと量子井戸層が思い出されると思いますが、格子整合しない井戸層と障壁層とからなる量子井戸を歪量子井戸と言いますが、まさにこれはGaN系発光ダイオードに有用です。この辺りについては同時期にNTT社から出願された特開平6-021511などに説明がなされています。

 以上より、バッファ層を挟む、歪みの入った薄い層を発光層とするという手段によって発光層の材料の選択範囲を拡大することができることが分かります。

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