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zoom RSS ドープ型発光層による発光効率の向上

<<   作成日時 : 2015/01/18 20:47   >>

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 イーストマンコダック社が開発した有機ELは基本的に蛍光を利用したものでした。これは多くの分子の基底状態が一重項であるためです。外部から注入される電子のうち一重項励起状態にあるものが基底状態に落ちて発光します。三重項励起状態になるものもあるのですが、これがエネルギーを失う場合、多くの分子ではリン光を発生せず熱エネルギーになってしまうためです。

 ところで、前々回説明した一重項と三重項ですが、一重項の方はスピンの方向の組み合わせは1種類のみですが、三重項の方は3種類あります。このため単純に考えると一重項と三重項の励起状態に入りうる電子の数は1:3になると考えられます。とすると多くの分子では3/4の励起電子が発光に寄与せず失われることになり、蛍光のみを利用したELは注入した電子、正孔のうち発光に寄与する割合(内部発光効率)が最大で25%しかないということになります。

この問題を解決するため、三重項すなわちリン光を利用しようという提案がアメリカ、プリンストン大学のフォレスト(S.R.Forrest)教授のグループによって1998年になされました。特許としてはこの年に米国で出願された特表2002-525808が対応すると思われます。この特許は構成を端的に書いたものですが、後年出願された特表2004-506305には以下で説明する主な内容と文献が記載され、技術レビュー(総説)として役立ちます。

 リン光を利用するためにはリン光を発生しやすい分子を探す必要があります。リン光を発生するためには、三重項が一重項に変化する必要があり、スピンの反転が必要になります。三重項励起状態の電子がエネルギーを失う場合、基底状態は一重項ですから、三重項励起状態の電子はスピン反転を起こして一重項の基底状態に戻る必要があるからです。

また一重項励起状態より三重項励起状態のエネルギーは通常低いので、一重項励起状態の電子は三重項励起状態に移行すること(項間移動あるいは系間移動といいます)ができますが、この場合もスピン反転を伴う必要があります。

プリンストン大学の提案では発光層に白金またはイリジウムの錯体を使用しています。このような重金属を含む分子は三重項励起状態の電子がスピンを反転する確率が高くなることが知られています。これを重原子効果といいます。

 スピンは磁気の源であるため、外界の磁場に影響を受けやすく、外部磁場があると状態を変えやすくなります。原子の周りの電子は自身が原子の周りの軌道にあって運動していますから、その軌道運動によって磁場を発生します。原子価の大きい原子ではこの磁場が強くなります。このためスピンに及ぼす影響(スピン−軌道相互作用)が大きくなります。このスピン−軌道相互作用が大きければスピンが反転する確率が増えると言えます。これが重原子効果です。

 さらにプリンストン大学の提案では、このリン光発生分子を単独で発光層に使うのではなく、この分子(ゲスト分子)を別の分子(ホスト分子)中にドープするという考えを採っています。ドープといっても半導体におけるドープとは違って数%もの濃度で添加するものです。
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 この場合の発光機構を示すエネルギー図を図Aに示します(特開2002-203683より。前掲のプリンストン大学の特許にも同様の図がありますが、ここではわかりやすいこの図を採用します)。左側がホスト分子で、上記のように三重項励起状態に3/4(75%)の電子が入りますから、ホスト分子単独ではこれがすべて熱として失われてしまいます。

 右側に示すゲスト分子はホスト分子に比べて一重項、三重項のエネルギーはともに低く選ばれているので、一重項同士、三重項同士で励起電子の系間移動が破線矢印のように起こります(この移動にはスピンの反転は不要です)。さらにゲスト分子の一重項励起状態の分子は三重項励起状態に非発光で移ります。結果としてゲスト分子の三重項励起状態にすべての電子が集まることになります。ゲスト分子はリン光の発光が可能な材料ですから、注入電子、正孔のほぼすべてが発光に寄与することが期待されることになります。
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 ホスト分子にはコダック社の時代から正孔輸送材料、電子輸送材料に使われていた分子材料をそのまま利用できます。プリンストン大学の使用例は図Bのような材料です(前掲の特表2004-506305)。(a)、(c)は典型的な正孔輸送材料、(b)、(d)は電子輸送材料です。またゲスト材料の例は図Cに示されるようなイリジウム(Ir)や白金(Pt)の錯体です。(e)はトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(PPy)3)、(f)はポルフィリン白金(PtOEP)です。
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 同じ特許に示されている層構造の例を図Dと図Eに示します。図Dの方は電子輸送材料であるAiq3(図Bの(d))の層の中に8%のPtOEPを添加した層を設け、これと正孔輸送層(HTL)であるα−NPDの層を接合した構造です。陽極のITO電極から正孔を注入し、陰極のMgAg電極から電子を注入し、電子輸送層(ETL)中でリン光を発生させるようにした構成です。
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 図Eの方は正孔輸送層であるCBP(図Bの(c))層の一部にIr(PPy)3を8%添加した層を設け、この両側をイオン化エネルギーが段階的に変化するようにTPD(図Bの(a))とBCP(図Bの(b))の層で挟んで正孔輸送層(HTL)を構成しています。これにAlq3の電子輸送層(ETL)を接合しています。これにより図のようにLUMOが陰極側から発光層までほぼ平坦になり電子が発光層へ十分に供給されることになります。

 以上の構成により有機ELの量子効率は大きく改善されます。

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