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zoom RSS 有機EL素子におけるキャリア輸送(その1)

<<   作成日時 : 2015/02/03 20:11   >>

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 本記事は2月3日にアップしましたが、不備やわかりにくいところがあったので、書き直しました。

 前回は発光層について説明をしましたが、有機ELにおいてはこの発光層に加えて正孔輸送層あるいは電子輸送層が設けられます。これらの層の役割は電極から注入されたキャリアを発光層へ運ぶことです。

 前々回にも触れた正孔輸送層、電子輸送層に使える有機分子は多数提案されています。どのような基準で材料を選べばよいのか、について今回は考えてみます。

 今さら言うまでもありませんが、無機結晶半導体ではp型半導体とn型半導体があり、p型半導体中では正孔が主たるキャリアで、n型では電子が主たるキャリアです。この2種類の導電型はどのように作られるかと言うと、例えばシリコンでは、4価のシリコンに対して3価の元素(例えばボロン(ホウ素))を微量添加(ドープ)するとp型になり、5価の元素(例えばリン)をドープするとn型になります。

 多数の4価の元素からなる結晶中に3価の元素が1個入ると、その周囲では電子が1個不足した状態になります。この電子が不足している場所が正孔に相当しますが、その場所には周囲の電子が移動してくることができ、そのときには他の場所で電子が不足することになるので、見かけ上、正孔も電子同様に移動することになります。一方、5価の元素が入ると電子が過剰になり、この過剰な電子が移動することになります。

 結晶半導体ではこのように人為的に導電型を作ることができます。有機分子の場合は非常に他種類ある分子から選ぶことが基本になります。その選択の基準ですが、簡単にはつぎのように考えてよいと思います。

 まず、リチウム(Li)やナトリウム(Na)などのアルカリ金属は1価の正イオン、Li+、Na+になりやすいことが知られています。例えばNaの場合、電子を11個もっていますが、これらの電子は1s軌道に2個、2s軌道に2個、2p軌道に6個、3s軌道に1個が入っています。この最外殻の3s軌道の電子1個が離脱した状態がNa+ですが、これは2d軌道までが10個の電子でちょうど埋まったネオン(Ne)と同じ電子構造であり、安定です。

 また、フッ素(F)や塩素(Cl)などのハロゲン元素は1価の負イオン、F-、Cl-になりやすいことが知られています。Fは9個の電子をもち、2d軌道に5個の電子があり、もう1個電子が入ることによってNeと同じ構造になるためです。

 有機分子の場合も同じように考えられます。正孔輸送層の材料として多く用いられている材料に芳香族アミンがあります。アミンとは図のように窒素の周りに3個の有機基R1、R2、R3が結合した分子です。アミンには入りませんが、窒素に水素が3個結合したアンモニア分子(NH3)がもっとも簡単な形です。
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 窒素は7個の電子をもち、最も外側の2p軌道にある3個の電子が結合に関わります。このように窒素の結合手(配位と言います)は3です。アンモニアではここに水素がそれぞれ共有結合していますからすべての配位が埋まっています。ただし、窒素の2s、2p軌道は混成軌道sp3を形成しているとも考えられ、この場合、残った2個の電子は図に・で示したように結合にかかわらず非共有電子対と呼ばれています。

このアンモニアを水に溶かすと、水分子の水素を引きつけてアンモニウムイオン(NH4+)になります。これは2個の非共有電子対が水素結合と反対側に偏って存在するため、その部分に水素が引き寄せられるためです(以前に引用した「実践量子化学入門」のp、114参照)。同様にアミン類も水素原子を1個引きつけて正に帯電しやすい性質があります。これはアンモニアあるいはアミン分子側からみると電子が抜けやすいことを示していて、これが正孔がキャリアになりやすい理由です。この性質は電子供与性ということがあります。

 電子輸送層の材料は正孔輸送層に比べると典型的材料をあげにくいですが、よく使われている材料として以下で触れているAlq<aub>3という分子があります。この分子は3価の金属であるアルミニウムに窒素と酸素を含む同じ有機基(8-ヒドロキシキノリン基)が3個結合した形をしています。説明を簡単にするため、もっと単純なボラン(BH3)を取り上げます。ホウ素に3個の水素が結合したこの分子は不安定ですが、ここはあくまで説明のために簡単な分子を取り上げます。

 ホウ素は5個の電子を持ち、2s2個、2p1個ですが、混成軌道sp2を作ります。この3つが配位となり、ここに水素が3個結合したのが、ボロンです。この場合は混成軌道に空きがあり、電子が入りやすくなっています。これが電子がキャリアとなりやすい理由です。この性質を電子吸引性ということがあります。

Alq3は上記のように+3価の金属であるAlが中心にあり、ヒドロキシキノリン基は−1価です。因みにAlの配位数は6ですが、ヒドロキシキノリン基は酸素と窒素において配位できる(2座配位子という)ので、下の分子構造図のように分子が形成されます。構造は複雑ですが、基本的にはボランと類似の理由で電子吸引性になります。

 以上は分子の性質からの説明ですが、正確には分子軌道法によって計算されるHOMO(イオン化エネルギー)、LUMO(電子親和力)の値(図A参照)や電子の分布状態によって性質が決まることになります。正孔輸送材料はイオン化エネルギーが小さいことが必要です。HOMOから電子が励起されやすく正孔が生成されやすいことを意味します。電子輸送材料は電子親和力が大きいことが必要です。LUMOのエネルギーが小さいほど励起電子が存在しやすくなります。
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 具体的な例をあげてみます。図Bは前回のプリンストン大学の構造とほぼ同様の積層構造のエネルギー図です(特開2008-294200より)。各層の上に書いてある数字がLUMOのエネルギーまたは電子親和力で、下の数字がHOMOのエネルギーまたはイオン化エネルギーです。マイナス符号が付いているのは真空準位より低いエネルギーをマイナスのエネルギーとしているためです。
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 左側が陽極(ITO)で陽極側の第1層が正孔輸送層です。ここでは下に示すような構造の4,4’-ビス-[N-(1-ナフチル)-N-フェニル-アミノ]-ビフェニール、略してα-NPDと呼ばれる材料です。上記のアミノ基を2つもっています。そのHOMOは-5.5eVとここで使われている材料のなかで絶対値がもっとも小さくなっています。
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 また右側の陰極に接触する層が電子輸送層で、材料は上でも触れたトリス(8-ヒドロキシキノリノラート)アルミニウム、略称Alq<sun>3です。LUMOは-3.1eVとここで使われている材料のなかで絶対値がもっとも大きくなっています。

ただこの材料はHOMOのエネルギーが-5.8eV と小さいのが難点とされています。HOMOのエネルギーが小さいと発光層から正孔が陰極側に流れ出やすく、発光に寄与しないで失われやすいからです。そこでこの例ではAlq3層の内側にHOMOのエネルギーが各層のなかでもっとも小さい層を入れて電子をブロックするようにしています。この層の材料はバソクプロイン(略称:BCP)で、LUMOのエネルギーは-2.9eVとA;q3とあまり変わらない電子輸送層です。

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