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zoom RSS 有機EL素子におけるキャリア輸送(その2)

<<   作成日時 : 2015/02/10 19:45   >>

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 前回、有機分子が電子供与性、電子吸引性になる理由を考えましたが、有機ELにおけるキャリア輸送はこれだけで決まるわけではありません。

 固体に電界Eを印加したとき、流れる電流密度iは次式で表されます。
    (1)
ここでqは電子電荷、nはキャリア濃度、μはキャリアの移動度です。

電流が流れやすいためには(1)式からキャリア濃度nが大きいことも必要ですが、それとともにキャリア移動度μが大きいことも重要です。キャリア移動度とまとめた言い方をしましたが、通常の物質では電子の移動度と正孔の移動度は異なるのが普通です。正孔輸送層では正孔移動度が高いことが必要で、一般に正孔移動度が電子移動度より大きい材料が選ばれます。電子輸送層は逆に電子移動度が正孔移動度より大きい材料が選ばれます。

 このキャリア移動度はどのような方法で測定されるかについてまず触れておきます。移動度の測定方法はいくつかありますが、もっとも直接的な方法として知られているのがタイムオブライト(Time of flight)法、略してTOF法です。

 この方法では、測定しようとする材料に図Aのように2つの電極を着けた試料を用意します。電極間距離をdとし、電極間に電圧Vをかけた状態で一方の電極に近い位置にレーザ光などの光パルスを短時間照射し電子−正孔対を生成させます。すると光を当てた位置に近い電極が陰極である場合には、正孔は直ちに陰極に達して消滅しますが、電子は距離d離れた陽極方向に試料中を移動します。
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 光が照射されていないときに流れる電流は小さいとすると、電子が陽極に向かって移動している間だけ電流が流れ、理想的には電子が対極に達するとこの電流は流れなくなるはずです。そこで電流が観測されていた時間をオッシロスコープのような測定器で測定すると、電子が電極間の距離dを移動する時間tfが求められることになります。このtfはトランジットタイムとも言い、次式で表されます。ただしvは電子の移動速度です。
  
vは移動度μを使って
  
と表されますから、電界EがV/dであるので、移動度μはトランジットタイムtfを用いて次式により求められます。
  

 極性を逆にすれば正孔の移動度が測定できますから、TOF法は正孔と電子の移動度を明確に区別して測定ができるという特徴があります。実際の測定ではある時間に急に電流がゼロになるという結果は得られません。これは試料中を移動する電子は次第に拡散して分布が広がってしまうためです。しかしキャリアの分布の中心的な部分が電極に達すれば、その後、電流は減少するはずです。そこでよく用いられるのが図Bのように電流の時間変化を両対数のグラフにプロットし、特性が折れ曲がる点をtfとする方法です。
画像

 なお、移動度の単位はm2/Vsです。ただし従来からの慣例としてcm2/Vsが使われる方が多いようです。

 測定結果の数値例をあげてみます。代表的な電子輸送材料のAlq3の電子移動度は3×10-6cm2/Vs、正孔移動度は2×10-8 cm2/Vsで、電子移動度の方が150倍も大きくなっています(特開2008-205174より)。正孔輸送材料であるCBPの電子移動度は1.9×10-4cm2/Vs 、正孔移動度は1.15×10-3cm2/Vsで、正孔移動度の方が6倍ほど大きくなっています(国際公開2008/015949より)。このキャリア移動度の測定値は報告によって少しばらつきがあります。これは同じ物質でも試料の状態が異なるためと思われます。

 これらの値は無機結晶半導体の移動度に比べると非常に小さい値です。例えば、Siでは電子移動度が1500 cm2/Vs、正孔移動度が600 cm2/Vsとなっています。この大きさの極端な違いは電子の輸送機構が異なるためと考えられています。

 無機結晶半導体の電子伝導機構は伝導帯内で電子が移動するバンド伝導と考えられます。一方、有機分子の層は結晶ではなく個々の分子が接近して並んでいると考えられますから、電子の移動は隣り合う分子を伝わって起きていると考えられます。とすると分子と分子の間には何らかの空間が存在し、電子はその空間を飛び越えて隣の分子に移る必要があります。

 これをモデル化したのがホッピング伝導機構です。個々の分子内にいた電子が隣の分子へ移動するときには、図Cのようなポテンシャルエネルギーの高いところ(山)を越える必要があります。外部から電界Eが印加されているので、このポテンシャルエネルギーには全体として傾斜が重なります。
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 電子はこのエネルギーの傾斜に沿ってポテンシャルエネルギーの山をピョンピョンと飛び越えて移動すると考えます。これをホッピング伝導と呼んでいます。有機ELに使われる有機分子層では分子がきちんと整列しているわけではないので、ポテンシャルエネルギーの山の高さや山と山の間隔などは一定値ではないはずが、ここでは簡単なモデルとしてこれらを一様とみなし、図Cのようなポテンシャルエネルギーの山が一列に並んでいるとします。

少し式を書きます。ポテンシャルエネルギーの山の高さをW、山の間隔をaとします。このときポテンシャルの谷(一番低い位置)にある電子が山を越えて隣の山に移る確率w0
  
と書けます。νは定数、kはボルツマン定数、Tは温度です。これに電界Eをかけたとします。すると図Cに示すように左側の山の高さは右側の山の高さに比べてqaEだけ低くなります。そこで位置0にいる電子が右側の山を越えて位置1に移る確率w01
  
となり、左側の山を越える確率w02
  
となります。このため電子が移る確率wは差し引き
  
となります。この確率に距離aをかけたものが移動の速度vに相当します。上の2式を使ってこれを計算すると
    (2)
となります。なお、sinhは双曲線正弦関数(ハイパボリックサイン)であり、
  
と定義されます。

 ここで電界Eは小さいとし、qaE<<kTが成り立っているとすると(2)式は
  
と近似されます。移動度μはv=μEより
  
と表せます。この式からホッピング伝導においては移動度は強い温度依存性をもっていることがわかります。

 一方電界が高く、qaE>>kTが成り立つ場合には(2)式は
  
となります。この場合は電流がオーム則から外れ、電界に対して急増する特性となります。測定した電流−電圧特性が
  
の関係に従うかどうかが、このモデルが適用できるかの目安となります。

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