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zoom RSS 有機EL素子におけるキャリア輸送(その3)

<<   作成日時 : 2015/02/18 21:41   >>

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 有機ELの発光を効率的に起こすためには、電極からキャリアが注入されやすくする必要があります。無機半導体の場合は、電極と半導体をほぼ障壁のないオーミック接触にするという手段がとられますが、有機分子に対してオーミック接触を実現することは難しいと思われます。

 そこで基本的には電極界面に障壁ができるのは止むを得ないとし、この障壁をできるだけ小さくするように電極材料の仕事関数を選択するという考え方がとられます。

陽極では正孔の注入を促進するために、電極のフェルミエネルギーと有機分子のHOMOのエネルギーが近いことが求められます。言い換えると電極の仕事関数が有機分子のイオン化エネルギーに近いことが求められます。一方、陰極材料は仕事関数が有機分子のLUMOのエネルギー、あるいは電子親和力に近いことが求められます。

 まず、具体例を挙げておきます。図Aは以前に掲載した有機ELの積層構造のエネルギー図の一例です(特開2008-294200より)。陽極には透明電極のITOが使われ、正孔輸送層のα-NPDに接触しています。ITOの仕事関数は示されていませんが、表面が清浄な状態では-5.0eV程度になりますから、正孔輸送層のHOMOのエネルギー-5.5eVとは0.5eVほど差があることになります。
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 陰極はやや複雑でLiF/MgAgと書かれています。LiF層のついては後で説明することにしてMgAgですが、仕事関数は-3.7eV程度です。電子輸送層のAlq3のLUMOのエネルギーは-3.1eVですから、差は0.6eVほどで陽極側とほぼ同等であることがわかります。

 金属の仕事関数については以前にも触れていると思いますが、念のためデータを確認してみます。半導体デバイスの教科書(例えばS.M.Sze著”Physics of Semiconductor Devicesなど)には多くの元素の仕事関数のデータが載っています。

 陽極用の仕事関数の大きい材料を探すと、もっとも大きいのは白金(Pt)で-5.4eVですが、実際にはあまり使われていないようです。可能性があるものとしては金(Au)の-4.8eVがあります。陽極を基板側にする場合は透明なITOが有利と考えられるでしょう。

 陰極用の仕事関数の小さい材料をみると、上記のマグネシウム(Mg)は-3.6eVで確かにかなり小さい部類です。ただし酸化されやすく、抵抗率も高めのため、これを補うために上記のように銀(Ag)などを加えています。仕事関数の増加を避けるため、Agの添加量は10%ほどに抑えています。

 この他、インジウム(In)の-3.8eVも候補になります。融点が低い点は有利かもしれませんが、柔らかいので機械的強度が劣るので使う場合は合金化が必要と思われます。よく使われるアルミニウム(Al)やAgの仕事関数は4.3eVと少し高めになります。

 仕事関数の値を眺めていると、-3eV以下の金属があるのに気づきます。アルカリ金属のリチウム(Li)ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)はいずれも-2.3〜-2,4eV前後と極めて小さい値になっています。アルカリ土類金属も上記のMgの他、カルシウム(Ca)が-2.8eV、ストロンチウム(Sr)が-2.4eVと原子番号が大きくなるほど小さい値になっています。

 仕事関数が小さいことだけを追求すると、これらの材料を使うのがよいことになりますが、LiやNaなどは空気中で安定でないため、まったく実用的でありません。しかし何とかこの性質を生かしたいという発想から他の金属との合金とする試み、例えばAlLiなどの例があります(特開平05-159882)。

 ここから進展したのかどうかわかりませんが、Liの化合物を陰極と電子輸送層の間に挟んで電子注入層とすることが行われています。イーストマンコダック社はフッ化リチウム(LiF)層を用いると、MgAgより低い駆動電圧で高い発光効率が得られることを示しています(特開平10-074586)。しかしなぜそのような結果が得られるのかについては明らかにしていません。

 LiFはLiを含むものの明らかに絶縁体であり、電極の一部とはみなせません。ただし膜厚が数nm程度と非常に薄いことから、金属を積層すれば図Bのような構造(特開平10-340787より)になり、トンネル効果により電子が注入されていると考えられます。このような現象なら材料はLiFに限られないはずで、他の材料も提案されています。しかしなぜこれらの絶縁膜を挿入した方が電子が注入されやすくなるのか、定量的な説明はされていないようです。
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 金属から半導体または絶縁体へのキャリア注入機構としては以前にも説明したようにショットキー接触がよく知られています。一般に有機分子層へのキャリア注入にもこの理論が適用されているようですが、つぎの点に注意する必要があります。

 ショットキー障壁を介したキャリア注入の理論では、不純物がドープされた半導体に電極が接触している場合が前提で、半導体表面付近ではこの不純物がイオン化して帯電し空乏領域が形成されています。しかし有機分子層では不純物ドープという考え方はなく、キャリア濃度が低いので、同じ様に空乏領域の形成を考えるには無理があります。

 絶縁体層に金属電極が接した場合、エネルギーは図Cのようになります。絶縁体内には電荷はほとんどないはずですからバンドに曲がりは生じないはずです。しかし以前の記事では触れていませんが、障壁の高さに関しては鏡像効果という効果が効いてくることが考えられます。この鏡像効果というのは、電磁気学的な考え方です。図D(a)のように点電荷が平面導体の前に置かれたとき、点電荷は生じる電界によって力を受けます。言い換えればこの電界は図Cの絶縁体のバンドを変形させる効果をもつはずで、これが鏡像効果と呼ばれます。
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そこでこの電界分布を求めることを考えます。図D(b)に示すように導体を取り除き、導体の表面だった位置に対して点電荷と対称な位置に反対符号の仮想の点電荷を置いたときに、この2つの点電荷の間に生じる電界分布を計算し片側のみを用いれば、求める電界分布はそれと等価になります。鏡に映る物体の像は仮想的に鏡の表面に対して物体と対称な位置にあるとして作図されますが、それと類似するので、これが鏡像効果と呼ばれる理由です。
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 図D(b)において距離2x離れた2つの電子(電荷量q)の間に働く力Fは、クーロンの法則により
  
と書けます。ここでεは絶縁体の誘電率です。導体表面から距離xの点における電子のポテンシャルエネルギーV(x)は、電子を無限遠からxの位置に運ぶのに必要な仕事量に相当するので
  
となります。これはイメージとしては図Cの黒い点線でしめすような曲線のようになります。

ここで絶縁体に図Cに赤線で示すような電界Eが印加されると、ポテンシャルは青い曲線で示すように変形し、式で示すと
  
となります。このポテンシャルの最大となる点xm
  
より得られ、
  
となります。またエネルギーの低下量Δφは
  
となります。つまり鏡像効果を考慮すると、障壁の高さは電界Eの平方根に比例して低下することになります。鏡像効果を考慮することにより、障壁の高さが印加電界によって変化する効果が説明できます。

一方、電極からのキャリア注入については熱電子放出という考え方があります。これについても以前に取り上げていますが、加熱した金属から電子が真空中に放出される機構を固体中へのキャリア注入に拡張した理論です。

この理論によれば、電極から絶縁体側へ流れ込む電流Jmi
  
となります。ここでRはリチャードソン定数と呼ばれる定数です。障壁の高さφBは図Cに示されていますが、これが指数関数の形で含まれていますから、電流に対して強い影響を与え、障壁をできるだけ低くしておくことが重要なことがわかります。

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