石くれと砂粒の世界

アクセスカウンタ

zoom RSS トンネルダイオード

<<   作成日時 : 2015/07/19 17:20   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

 今回はトンネルダイオードを取り上げます。このトンネルダイオードは前回紹介したトンネル効果を応用したデバイスですが、一つのpn接合からなる単純なダイオード素子です。エサキダイオードとも呼ばれ、言うまでもなく江崎玲於奈博士によって初めて開発され、後年ノーベル物理学賞(1973年)の対象となったことはよく知られる通りです。

 この発明に関する最初の特許は特公昭35−6326「半導体電気装置」で、出願は1957年(昭和32年)ですから、すでに発明から50年をとっくに越えていることになります。

 しかしこの特許にはトンネル効果という言葉はなく、むしろある条件でpn接合を作ると図Aのような特異な特性が得られ、この特性はいろいろ応用できるという書き方になっています。なお実線(T)は室温(25℃)、破線(U)は低温(−75℃)で測定された特性ですが、ここでは温度特性についてはとくに触れません。

 実験はゲルマニウムのpn接合を使って行われています。ゲルマニウムでなければならない理由はとくになく、当時まだシリコンの技術が確立する前でトランジスタなどもゲルマニウムが主流の時代であったので、ゲルマニウムで実験が行われたに過ぎません。

 特徴は半導体材料の種類よりも不純物の濃度です。普通の整流特性をもったpn接合ダイオード、あるいはトランジスタの場合、p型、n型の層にドープされる不純物の濃度は1015〜1017cm-3程度です。この程度の不純物濃度の場合、pn接合部分に空乏領域が広がりやすいためです。ところがトンネルダイオードの場合は、かなり不純物濃度を高く1018〜1020cm-3程度にするのが特徴です。このようにすると空乏領域は広がりにくく、非常に狭くなってしまうことが予想されます。

 図Aの特性はこのような高不純物濃度pn接合の電流−電圧特性です。通常のpn接合では順方向(p側にプラス、n側にマイナス)に電圧をかけると、電圧の増加とともに電流が指数関数的に増大します。また逆方向(p側にマイナス、n側にプラス)に電圧をかけると、電圧が小さい間はほとんど電流が流れず、電圧が大きくなるとある点で接合の降伏が起き、電流が急増する特性になります。図Aは主として順方向の特性を示していますが、通常とまったく違う特性になっています。
画像

 もっとも注目すべき特性は中程度の順方向電圧に対して電圧が増加しているにもかかわらず、電流が減少している部分があることです。電圧の増加に対して電流が減少するというようなことは通常は考えられない異常な特性です。このような特性はオームの法則からみれば抵抗が負であることに相当しますから、負性抵抗特性と呼び、負性抵抗特性をもつデバイスをまとめて負性抵抗素子と言うことがあります。トンネルダイオードは負性抵抗素子の代表的なものです。

 この負性抵抗特性が量子力学的なトンネル効果に基づいて説明できることを示したのが、江崎博士の大きな業績ですが、その点については上記の特許には書かれておらず、同年の国内学会(物理学会)、さらには翌年発表の論文(L.Esaki,”New Phenomenon in Narrow Germanium p-n Junction”,Physical Review, Vol.109, p.603 (1958))において発表がなされています。以下になぜ図Aのような現象が起きるのか説明します。

 まず高濃度に不純物が添加されたpn接合は通常のpn接合とどう違うのでしょうか。図Bはそのような高不純物濃度pn接合の、外部電圧がかかっていない熱平衡状態におけるエネルギーバンド図です。イメージを示す図で正確なものではありません。
画像

 例えばn型の半導体の場合、ドナーとなる不純物の濃度を増やしていくと、それに伴って伝導帯の電子濃度が増加します。電子は伝導帯の底だけにとどまらず、図で水色に塗ったエネルギーの高い準位まで埋まってくるようになります。電子濃度が低い場合、フェルミレベルはバンドギャップ内にありましたが、電子濃度が高くなると金属に近い状態となり、フェルミレベルは伝導帯内の電子で埋まっているもっとも高い準位のエネルギー付近になってきます。p型の場合も同様で、正孔が価電子帯内に溜まり、フェルミレベルは価電子帯内に入ります。

 このような状態ではpn接合の接合面付近に空乏領域はできず、図Bに模式的に示すように強い電界のかかった幅の狭いエネルギーギャップ(ナローギャップということがあります)でp型層とn型層が区切られた状態になります。それでは図Aのような特性がなぜ得られるのかを図Cと図Dを見ながら考えていきましょう。
画像


画像

 順不同になりますが、まず図Cの(c)点、すなわち小さな順方向電圧Vcがかかった場合を考えます。このときのバンド図は図Dの(c)に相当します。p側に対してn側のエネルギーが熱平衡状態(図D(b))のときよりVcだけ上に上がります。このときn側伝導帯中に溜まっている電子のうちエネルギーの高い部分は、p側の価電子帯上部が空いている(正孔が溜まっている)準位のエネルギーと同等のエネルギーをもつようになります。このような状態では接合境界部分のバンドが狭いので、赤い矢印で示すようにn側のエネルギーの高い電子がp側の価電子帯の空いた準位(正孔が詰まった準位)へトンネルができる確率が高くなります。これが小さい順方向電圧により(c)点でp側からn側に向かって電流が流れることになります。

 電圧がさらに大きくなると、トンネルが可能な準位にある電子の量が増えていくので電流は増加します。これが(c)点から(d)点に至る間に相当します。

 それでは(d)点を越えると(e)点のように電流が減少する、つまり負性抵抗特性が生じるのはなぜかを考えます。電圧Veのようにやや大きな順方向電圧がかかると、図D(e)に示すように、n側の伝導帯の底がp側の価電子帯の頂上より高くなります。こうなるとn側伝導帯の電子のエネルギーはp側のエネルギーギャップ内に対応するようになります。

 前回の議論では触れていませんが、電子のトンネル現象が起きるためには行き先(障壁の反対側)に電子について空いた準位がなければなりません。相手側に空いた準位がないと薄い障壁層の片側に電子が多数あってもトンネル現象は生じません。図D(e)の辺りでは電圧が増えるにつれトンネルできるn側電子が減ってきますから電流が減ることになります。これが異常な現象の説明です。

 さらに電圧がVfのように大きくなると、図D(f)のように電子、正孔はトンネル現象にはよらず、通常のpn接合の順方向特性と同様に接合を熱エネルギーによって乗り越えて移動することになり、これによって電流は再び上昇します。

 (a)点の逆方向については図D(a)のようにp側の価電子がn側の伝導帯の空き準位にトンネルできるようになりますから、通常のpn接合のように電流が妨げられることがなく、逆方向に電流が流れて整流特性は現れません。

 以上が図Aのような電流−電圧特性が得られる現象の説明です。トンネルダイオードについてもう少し続けます。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
トンネルダイオード 石くれと砂粒の世界/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる