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zoom RSS 量子ドット太陽電池

<<   作成日時 : 2009/07/26 20:39   >>

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 前回までに紹介した太陽電池は何らかの形で実用化がなされているものでした。今回以降はまだ開発中の技術をいくつか取り上げていきたいと思います。今回は前回までの化合物半導体太陽電池の延長とも言える量子ドット太陽電池を紹介します。

 量子ドットとは何でしょうか。半導体レーザなど発光素子の発光層には量子井戸が広く使われているのをご存じかと思います。「井戸」とは電子または正孔が落ち込みやすいエネルギーの構造のことで、バンドギャップエネルギーの小さい半導体層をバンドギャップエネルギーの大きい層で挟んだ構造などで実現ができます。

 「量子」という語が付いている意味は電子の波動としての性質を使うということと言えます。電子は粒子ですが、量子論によれば波としての性質をもっています。ということは波長が定義できることになります。電子をこの波長と同程度以下の狭いところに閉じ込めると特別の性質が現れます。このような幅の狭いエネルギーの井戸を量子井戸と言います。
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 量子ドットというのは量子井戸の一種です。電子を閉じ込める場所が厚さ数nmくらいの薄い層状である場合、電子は層の厚さ方向には動きを制限されますが、面内方向には制限がありません。1方向にのみ閉じ込めがはたらくという意味で、これを1次元の量子井戸と言いますが、単に量子井戸というとこれを指すのが普通です。細い線状の部分に閉じ込めた構造を量子細線と言います。これは2次元の量子井戸です。そして小さな箱のような部分に閉じ込める場合を量子箱とか量子ドットとか呼び、これが3次元の量子井戸です。

 このような量子井戸のなかの電子は広いところにいる電子とは違う性質をもちます。広い結晶のなかの自由な電子は伝導帯中のほぼどんなエネルギーでももつことができますが、もっともエネルギーの低い伝導帯の底に多く貯まっています。ところが井戸を狭くしていくと電子がいられるエネルギーが次第に変わり、複数に分かれていきます。これをサブバンドと呼んでいます。

 これは1つの半導体のなかに複数のバンドギャップエネルギーができたのと同じはたらきをします。いわばタンデム型を1つの層で作ってしまったようなものです。特開2002-141531号に分かりやすい図面が載っていますので紹介しておきます。

 図Aの上の図は半導体層の断面図で、3bと3cというバンドギャップエネルギーの大きい半導体層(障壁層といいます)に挟まれて量子井戸層11があります。その一部分に少し厚みがある部分12が作られています。これが量子ドットです。

 量子ドットは普通はその部分が障壁層のなかで孤立しているのですが、この図の場合はドットが分離せず薄い井戸層でつながった構造になっています。その違いは気にしないで見て下さい。

 図Aの下の図はエネルギーバンド図で上の構造図と対応して描かれています。大きなドットと小さなドットとではもちろん井戸の幅が違い、そのために1番目のサブバンドのエネルギーが違うことがわかります。小さいドット内では電子を励起するためのエネルギーは大きくなります。

 以前に説明したタンデム型の太陽電池では広い範囲にわたる太陽光のスペクトルを分担してバンドギャップエネルギーの違う半導体に担当させて光電変換させ、高い変換効率を得ていました。同じ考え方を材料を変えるのではなく、井戸の幅を変えることによって実現できるはずだというのが、量子井戸を太陽電池に使う理由です。ただこの考え方は1次元量子井戸でも3次元量子井戸でも基本的に同じです。3次元量子井戸にする意味はどこにあるのでしょうか。

 発光素子の場合は外から流し込んだ電子と正孔が井戸に落ち、そこで再結合して発光します。電子と正孔は井戸に落ち込む一方で、そこで消滅します。ところが太陽電池の場合は光によって励起され、井戸から飛び出した電子と正孔は電極に向かって流れなければ電流にならないので電力が取り出せません。

 一方で量子井戸は薄い層なので、1層で入射光を吸収して電流に変換するには不十分です。多層にして多くの光を吸収したいところです。かなり早い時期に出願された量子ドット太陽電池に関する特許(特開平7-297425号)では、pin構造のi層に多層の井戸層を設けた場合の問題点を指摘しています。図Bはpin構造のエネルギーバンド図を立体的に示したものですが、図のように電子や正孔が流れる途中に井戸があると、折角励起された電子や正孔は再びそこに落ち込んでしまいます。

 このように変換効率を上げるためには井戸を多層に作りたいのですが、そうすると一旦流れ始めた電子と正孔がそこに落ちてしまう可能性が高くなってしまうのです。これを改善できるのが量子ドットです。ドットにすると電子、正孔は井戸の脇をすり抜けて流れることができます。

 図Cは図Bと同じエネルギーバンド図を量子ドットのあるpin構造について描いたものです。これを見ると電子がドットの脇をすり抜けて流れることができるイメージがよくわかると思います。

 このような量子ドットを使った太陽電池は太陽光スペクトルに合わせた設計をすれば非常に高い変換効率が得られると期待されています。量子ドットの作り方としては上記特許に書かれているように何らかの方法で微結晶を成長させてドットにする方法と微細加工技術によってドットを作る方法に大別されます。しかし直径数nmというドットを思い通りに作るのはそう簡単ではなく、現状では製造方法が確立されるところまでは至っていません。理論上予測される変換効率が実現できるようなドットが作れるようになるにはまだ時間がかかると思われます。

 次回は有機物を使った太陽電池へ話を移したいと考えています。

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量子ドット太陽電池
量子ドット太陽電池という新しい太陽電池の話が、 2ちゃんねるで言及されているのを読んだ。 何のことかとググって見ると、発電効率の理論値が60%とかで、凄そうな話である。 最近日経新聞に載ったのが元ネタかと思ったが、結構いろいろ散らばっている。 時系列順に並べてみると&... ...続きを見る
異をとなえん
2009/07/27 01:37

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